遺伝の計算問題では配偶子を縦と横に並べた表(碁盤の目)を書くように習います。1遺伝子や2遺伝子のF2までならこれで困りません。ところが「F2の個体どうしを自由交配させたF3の比」のような問題になると、表は数百マスに膨れ上がります。それでも律儀に表を書いて時間切れになる受験生は少なくありません。この記事では表を使わずに確率の掛け算だけで遺伝の計算を解く方法を紹介します。京大模試の生物で全受験者中4位を取った筆者が、表を書かずに済ませる考え方を順に説明します。

結論

子の比は配偶子の確率の掛け算で決まります。碁盤の目はその掛け算を全部書き出した表にすぎません。独立に遺伝する遺伝子は1つずつ別々に計算して最後に掛ければよく、表を書く必要はありません。

教科書の方法(碁盤の目)

AaBb どうしを交配する場合を考えます。AaBb がつくる配偶子は AB・Ab・aB・ab の4種類で比は \(1:1:1:1\) です。これを縦と横に並べて \(4\times4=16\) マスの表を作り、マスを数えると

\[[\mathrm{AB}]:[\mathrm{Ab}]:[\mathrm{aB}]:[\mathrm{ab}]=9:3:3:1\]

が得られます。実際の表は次のとおりです。

[AB][Ab][aB][ab]

♀\♂ABAbaBab
ABAABBAABbAaBBAaBb
AbAABbAAbbAaBbAabb
aBAaBBAaBbaaBBaaBb
abAaBbAabbaaBbaabb

マスを色ごとに数えると \(9:3:3:1\) になっています。2遺伝子ならこれで十分です。しかし3遺伝子の AaBbCc どうしなら配偶子は8種類で表は64マスになり、マスを数え間違えずに終えるだけで一苦労です。

確率で解く方法

独立の法則とは「AとBの遺伝子が互いに無関係に配偶子に入る」ということです。確率の言葉でいえば2つの遺伝子の伝わり方は独立なので、それぞれの確率を掛けてよいことになります。

Aa どうしの交配で子が [A] になる確率は \(\frac34\) 、[a] になる確率は \(\frac14\) です。Bについても同じなので

\[P([\mathrm{AB}])=\frac34\times\frac34=\frac{9}{16},\quad P([\mathrm{Ab}])=\frac34\times\frac14=\frac{3}{16},\quad P([\mathrm{ab}])=\frac14\times\frac14=\frac{1}{16}\]

となり、表を書かずに \(9:3:3:1\) が出ます。AaBbCc どうしで3つとも優性になる確率も \(\left(\frac34\right)^3=\frac{27}{64}\) とすぐに求まります。遺伝子を1つずつに分けて考え、最後に掛けるだけです。

2つの方法を並べる

問題碁盤の目確率
AaBb どうし16マス\(\frac34\times\frac34\) など
AaBbCc どうし64マス\(\left(\frac34\right)^3\) など
F2の [AB] どうしの自由交配256マス2行(下の例題)

2つの方法は同じ計算をしています。違うのは書き出す量だけで、遺伝子や世代が増えるほど差が開きます。

例題 F2の優性個体どうしの自由交配

例題(典型問題)

独立に遺伝する2対の対立遺伝子A・aとB・bがあり、AとBはそれぞれaとbに対して完全優性である。AaBb どうしを交配して得たF2のうち、表現型が [AB] の個体だけを選んで自由交配させた。得られるF3の表現型の分離比 \([\mathrm{AB}]:[\mathrm{Ab}]:[\mathrm{aB}]:[\mathrm{ab}]\) を求めよ。

表で解こうとすると

F2の [AB] には AABB・AABb・AaBB・AaBb の4種類の遺伝子型が \(1:2:2:4\) で含まれています。自由交配では誰と誰が交配するかの組み合わせが \(4\times4=16\) 通りあり、それぞれに16マスの碁盤を書いて重みをつけて足すことになります。合計256マスで、試験時間内にやる量ではありません。先に [AB] 全体の配偶子の比 \(\mathrm{AB}:\mathrm{Ab}:\mathrm{aB}:\mathrm{ab}=4:2:2:1\) を出す工夫をしても \(9\times9=81\) マスが残ります。

その81マスの表が次です。配偶子の比 \(4:2:2:1\) を表すために AB を4回、Ab と aB を2回ずつ、ab を1回並べています。

[AB][Ab][aB][ab]

♀\♂ABABABABAbAbaBaBab
AB[AB][AB][AB][AB][AB][AB][AB][AB][AB]
AB[AB][AB][AB][AB][AB][AB][AB][AB][AB]
AB[AB][AB][AB][AB][AB][AB][AB][AB][AB]
AB[AB][AB][AB][AB][AB][AB][AB][AB][AB]
Ab[AB][AB][AB][AB][Ab][Ab][AB][AB][Ab]
Ab[AB][AB][AB][AB][Ab][Ab][AB][AB][Ab]
aB[AB][AB][AB][AB][AB][AB][aB][aB][aB]
aB[AB][AB][AB][AB][AB][AB][aB][aB][aB]
ab[AB][AB][AB][AB][Ab][Ab][aB][aB][ab]

色ごとに数えると [AB] が64マス、[Ab] と [aB] が8マスずつ、[ab] が1マスです。これだけ書いても答えは \(64:8:8:1\) の1行にすぎません。

確率で解くと

Aだけに注目します。F2の [A] の中では AA と Aa が \(1:2\) なので、[A] の個体がつくる配偶子が a である確率は

\[\frac23\times\frac12=\frac13\]

です。自由交配では配偶子どうしがでたらめに受精するので、子が aa になる確率は \(\left(\frac13\right)^2=\frac19\) 、[A] になる確率は \(\frac89\) です。Bも同じで、AとBは独立なので

\[[\mathrm{AB}]:[\mathrm{Ab}]:[\mathrm{aB}]:[\mathrm{ab}]=\frac89\cdot\frac89:\frac89\cdot\frac19:\frac19\cdot\frac89:\frac19\cdot\frac19=64:8:8:1\]

これで終わりです。256マスの表と同じ答えが2行で出ます。

発展 同じ個体を自家受精させると

例題のF2の [AB] を自由交配ではなく自家受精させるとどうなるでしょうか。自家受精では1つの個体の中で配偶子が受精するので、集団全体の配偶子を混ぜて考えることはできません。個体ごとに確率を考えます。

Aについて、AA(確率 \(\frac13\))の自家受精では aa は生じません。Aa(確率 \(\frac23\))の自家受精では aa が \(\frac14\) の確率で生じます。よって子が aa になる確率は

\[\frac23\times\frac14=\frac16\]

で、[A] は \(\frac56\) です。Bも同じなので

\[[\mathrm{AB}]:[\mathrm{Ab}]:[\mathrm{aB}]:[\mathrm{ab}]=25:5:5:1\]

となります。自由交配は配偶子の確率で、自家受精は個体の確率で考えます。この違いを意識すれば2つを取り違えることはありません。

条件付き確率で家系図を解く

確率で考える方法がいちばん効くのは「表現型しか分からない個体の遺伝子型」を扱う問題です。[A] の個体が AA か Aa かは見た目では分かりません。Aa どうしの子のうち [A] であると分かっている個体が Aa である確率は条件付き確率で

\[P_{[\mathrm{A}]}(\mathrm{Aa})=\frac{P([\mathrm{A}]\cap\mathrm{Aa})}{P([\mathrm{A}])}=\frac{\frac12}{\frac34}=\frac23\]

です。たとえば両親がともに Aa で本人は [A] という人が2人いて、この2人の間に生まれる子が aa になる確率は

\[\frac23\times\frac23\times\frac14=\frac19\]

となります。例題の自由交配で aa が \(\frac19\) になったのとまったく同じ計算です。家系図の問題で「この子が劣性の形質を示す確率を求めよ」と聞かれたら、表を書かずにこの掛け算をすれば済みます。

よくある間違い

優性の個体をすべてヘテロとして扱う

[A] の個体を Aa だと決めつけて計算すると、自由交配で aa が \(\frac14\) 出ることになってしまいます。[A] の中には AA が \(\frac13\) 含まれているので、Aa である確率 \(\frac23\) を掛け忘れないようにしましょう。

自由交配と自家受精を同じ計算で解く

自家受精の問題で集団の配偶子の確率 \(\frac13\) を2乗して \(\frac19\) とするミスです。自家受精では相手が自分自身なので、AA の個体から aa は決して生まれません。個体ごとに考えると \(\frac16\) になります。

条件付き確率の分母を取り違える

「[A] の個体が Aa である確率」を子全体に対する Aa の割合 \(\frac12\) と答えるミスです。分母は子全体ではなく [A] の個体(\(\frac34\))です。問題文が何を条件にしているかを最初に確かめましょう。

連鎖している遺伝子を分けて計算する

遺伝子ごとに分けて掛けてよいのは独立に遺伝する場合だけです。2つの遺伝子が同じ染色体にあって連鎖しているときは配偶子の比が \(1:1:1:1\) にならないので、組換え価から配偶子の確率を決めてから考えます。これは次の回で扱います。

この考え方をもっと学ぶなら

筆者は生物合格77講で遺伝の仕組みを理解し、標準問題精講で入試の計算問題を演習しました。それぞれのレベルと使い方は生物合格77講の記事と生物の標準問題精講・上級問題精講の記事で詳しく解説しています。

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