「数学は才能だ」と思ったことはありませんか。同じ問題集を同じだけ解いているのに、すらすら解ける人と何度やっても初見の問題で手が止まる人がいます。その差は才能ではなく論理にあると筆者は考えています。論理とは数学の文法です。
- 数学が伸び悩む原因が演習量ではなく論理にある理由
- 論理を知らないと入試で落とす4つの典型と正しい考え方
- 論理が必要な人とそこまで必要でない人の線引き
- 論理の学び方と、今日から始められる習慣
偏差値60前後から本番で合格者平均を超えるまで
筆者は高校で4STEPと青チャートに取り組んでいました。問題集は真面目に回していましたが、数学は河合塾の模試で偏差値60前後をさまよっていました。京大理系志望の中では最下位付近です。解法は覚えているのに、少しひねられると手が動かない。答えが合っても、なぜその解き方を選んだのか自分で説明できない。そんな状態がずっと続いていました。
転機は高2のときに論理の大切さに気付いたことです。式変形のたびに「今の変形は元の式と同じことを言っているのか」を確かめ、問題文の条件を「何が存在すれば答えになるのか」という形に読み替えるようにしました。すると同じ問題集でも、1問から学べることが目に見えて増えていきました。
結果として本番では、京大の合格者平均を大きく超える点数を取ることができました。変わったのは問題集の量ではなく、自分が何をしていてなぜその問題が解けるのかを説明できるようになったことです。論理はその「なぜ」を目に見える形にしてくれる道具でした。
数学は才能ではなく文法の問題
論理を意識した勉強法は上級者向けだと言われることがあります。筆者の考えは逆で、論理こそ数学が苦手な人がやるべきものです。
日本語の文法で考えてみてください。文法を何も知らないまま日本語の文章を大量に浴びせられたとき、頭のいい人はその中からAIのようにパターンを分析して、なんとなく文法を身につけ、自分で文章を作れるようになります。そうでない人は同じ量の文章を浴びてもそれができません。その人たちは文法を学ぶことで話せるようになります。
数学も同じです。数強と呼ばれる人たちは、論理を学ばなくても解法を覚えながら「なぜだろう」と疑問を持って解くうちに、自然と論理を身につけています。数弱はそこから同じように吸収することができません。同じ問題集を解いていても、頭の中で起きていることがまったく違うのです。
| 数強の頭の中 | 数弱の頭の中 | |
|---|---|---|
| 解法を見たとき | なぜこの解き方で解けるのか、どんな条件なら使えるのかを考える | この形ならこの解き方、と形と手順をセットで覚える |
| 初見の問題 | 問題文を「何が言えれば答えか」に言い換えて方針を立てる | 覚えた形に当てはまらないと手が止まる |
| ミスの出方 | 計算ミスはしても論理の抜けは少ない | 除外点・十分性の確認・場合分けの漏れで大きく減点される |
だから数弱は論理を意識的に学ぶことで、数強が無意識に得ている学習効果を手に入れられます。論理は数強と数弱の差を縮めるための道具です。
あなたはこの質問に答えられるか
突然ですが、次の4つの質問に答えてみてください。
- 条件と命題の定義は何か。2つの違いは何か
- 順像法と逆像法の違いは何か
- 「かつ」と「または」をどう使い分けているか
- 「すべての \(x\) について」と「ある \(x\) について」が付くと何が変わるか
多くの人はこの質問にすらすら答えられません。こんな基本的な語彙もあやふやなまま数学という学問を習得しようとするから、数学は才能だという言説が広がるのです。答えを1つずつ見ていきます。
条件と命題
命題は正しいか正しくないかがはっきり決まる文や式のことです。たとえば \(3>2\) は正しい命題です。条件は文字を含み、その文字の値を決めて初めて正しいかどうかが決まる文や式のことです。\(x>2\) は \(x=3\) なら正しく \(x=1\) なら正しくないので、命題ではなく条件です。
順像法と逆像法
どちらも値の取りうる範囲を求めるときの考え方です。順像法は \(x\) を動かしたときに \(y\) がどこを動くかを順に追っていく方法です。逆像法は「\(y\) がその値をとる」ことを「その \(y\) を与える \(x\) が存在する」と言い換えて、\(x\) の存在条件として調べる方法です。このあと見る軌跡の例はまさに逆像法です。
「かつ」と「または」
集合でいえば共通部分と和集合にあたります。連立した条件はすべて同時に満たす必要があるので「かつ」で結び、場合分けした結果は「または」で結びます。否定すると「かつ」は「または」に、「または」は「かつ」に入れ替わります。ここがあいまいなまま答案を書くと、場合分けを「かつ」でつないで答えが消えたり、範囲の端を取りこぼしたりします。
全称と存在
条件に「すべての \(x\) について」を付けたものを全称命題、「ある \(x\) について」を付けたものを存在命題といいます。条件は命題ではありませんが、こうした言葉を付けると正しいか正しくないかが決まる命題になります。否定すると「すべて」と「ある」が入れ替わることが、次の章の4つ目の典型につながります。
論理を知らないと落とす4つの典型
論理が抜けている人の失点にはよく似た形があります。どれも解法は知っているのに落とすという点が共通しています。
典型1:同値でない変形をして答えが増える
方程式 \(\sqrt{x+2}=x\) を解け。
両辺を2乗して \(x+2=x^2\) つまり \((x-2)(x+1)=0\) より \(x=2,\ -1\)。
\(x=-1\) を元の式に入れると左辺は \(1\) で右辺は \(-1\) です。2乗するという操作は「元の式ならば2乗した式」という一方通行の変形で、逆は成り立ちません。同値に書くなら次のようになります。
\[ \begin{gathered} \sqrt{x+2} = x \\ \iff x+2 = x^2 \ \text{かつ}\ x \geqq 0 \end{gathered} \]右辺が0以上という条件を一緒に持っておけば、答えは \(x=2\) だけです。式変形のたびに今の変形は同値か一方通行かを意識しているかどうかで、こうした失点はなくなります。
典型2:必要条件だけで答えを出してしまう
\(f(x)=x^3+ax^2+3x+1\) が \(x=-1\) で極値をとるような \(a\) を求めよ。
\(f'(x)=3x^2+2ax+3\) で \(f'(-1)=6-2a=0\) より \(a=3\)。
\(a=3\) のとき \(f'(x)\) を計算し直すと次のようになります。
\[ \begin{aligned} f'(x) &= 3x^2+6x+3 \\ &= 3(x+1)^2 \geqq 0 \end{aligned} \]\(f'(x)\) は \(x=-1\) の前後で符号を変えないので、\(x=-1\) で極値をとることはありません。正しい答えは「そのような \(a\) は存在しない」です。\(f'(-1)=0\) は極値をとるための必要条件にすぎず、十分性を確かめて初めて答えになります。
典型3:軌跡で除外点を落とす
\(m\) がすべての実数を動くとき、2直線 \(y=mx\) と \(x+my-2m=0\) の交点が描く図形を求めよ。
\(m=\dfrac{y}{x}\) を2本目に代入して \(x^2+y^2-2y=0\)。よって円 \(x^2+(y-1)^2=1\)。
\(m=\dfrac{y}{x}\) と置いた時点で \(x\neq 0\) を勝手に仮定しています。\(x=0\) のときを調べると1本目の式から \(y=0\) となり、原点は \(m=0\) のときに実際に通ります。一方で円上の点 \((0,\,2)\) はどんな \(m\) でも通りません。正しい答えは次のとおりです。
\[ \begin{gathered} \text{円}\ x^2+(y-1)^2=1 \\ \text{ただし点}\ (0,\,2)\ \text{を除く} \end{gathered} \]軌跡の問題は「この点を通るような \(m\) が存在するか」を調べる問題、つまり逆像法の問題です。そう読めていれば文字で割った瞬間に割れない場合を確認しに行けます。除外点を忘れる人の多くは、除外点の覚え方ではなく問題の論理構造を読み飛ばしています。
典型4:「すべて」と「ある」を取り違える
次の (A) と (B) が成り立つ \(a\) の範囲をそれぞれ求めよ。
見た目が似ているので (B) を (A) の裏返しと考え、端点 \(a=-1,\ 2\) を含めてしまう。
判別式を \(D\) とすると次のようになります。
\[ \frac{D}{4}=a^2-a-2=(a-2)(a+1) \](A) は \(D<0\) なので \(-1<a<2\) です。(B) は「すべての \(x\) で0以上」の否定なので \(D>0\) となり、\(a<-1\) または \(2<a\) です。判別式が0になる \(a=-1,\ 2\) は含みません。全称命題と存在命題の否定がどう入れ替わるかを知っていれば、端点で迷うことはなくなります。
論理が効く分野と、必要な人・不要な人
論理が直接役に立つのは軌跡と領域と整数問題の2分野です。どちらも条件を同値に言い換えたり、条件を満たすものが存在するかを考えたりすることがそのまま問題の中身になっています。
間接的にはほぼすべての分野で役に立ちます。たとえば微積分でも、増減表を書く前の条件の整理や、文字定数を含む問題の場合分けで論理を何度も使います。そのため東大や京大をはじめとする難関大では、論理は必須の内容です。
逆にそれ以外の大学では、解法の暗記で対応できる問題も多くあります。論理から学ぶのは遠回りでもあるので、志望校によって力の入れ方を変えるのが現実的です。
| 志望校 | 論理への向き合い方 |
|---|---|
| 東大・京大・医学部 | 必須。高2までに一度体系的に学び、演習のたびに使う |
| 難関国公立・早慶 | 必須。軌跡と領域・整数・微積分の文字定数で失点しないレベルまで身につける |
| 中堅国公立・MARCH・関関同立 | 解法の暗記を優先してよい。除外点や十分性の確認など頻出の抜けだけは押さえる |
| 共通テストのみ | 教科書の「集合と論理」を確実にすれば十分 |
論理の学び方
ここでいう論理は数学I・Aで習う対偶や背理法とは少し違います。同値変形・全称命題と存在命題・存在条件といった、数学の答案を支えるもっと本格的な論理です。学び方は大きく4つあります。
| 方法 | 費用 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 東進の講座「数学の真髄」 | 東進の受講料 | 論理を完全に身につけたい人。一番確実 |
| YouTube | 無料 | 講座を取る前にまず雰囲気をつかみたい人 |
| 予備校の授業 | 通っている予備校の授業料 | 駿台や河合塾に通っていて論理から教える講師を探せる人 |
| 参考書 | 本代だけ | 自分のペースで読み進めたい人 |
東進の講座「数学の真髄」
青木純二先生の講座で、論理を一番しっかり学べます。完全に身につけたい人はこの講座を取るのが確実です。講座の内容は東進で数学を取るなら?おすすめ3講座と講師の特徴でも紹介しています。
YouTube と予備校の授業
東大医学部のシーナさんのガチでノビる受験数学(ガチノビ)や、河合塾の刈谷今比古先生の予備校2.0が同じような内容の動画を投稿しています。論理を重視して教えているのは青木先生だけではなく、駿台や河合塾にも論理から教える講師がいます。刈谷先生もその1人です。通っている予備校で探してみる価値はあります。
参考書で学ぶなら
参考書で学ぶなら、次の順番で選びます。1冊目だけでも入試で必要な論理の多くはカバーできます。
方程式・図形・関数からとらえる数学の基礎 分野別標準問題精講
一番万人向けで敷居も高くない1冊です。方程式・図形・関数を横断して、同値変形や軌跡と領域の考え方を入試レベルで固められます。問題を解きながら論理の使い方を学べるので、論理の本を読むのが苦手な人でも取り組みやすい作りです。今後の新定番になっていくと筆者は考えています。
数学の真髄 -論理・写像-
東進の講座と同じ青木純二先生が書いた参考書で、論理そのものをしっかり学ぶなら第一の選択肢です。命題と条件、写像の考え方から入試問題の読み方までを一貫して扱います。詳しくは青木純二「数学の真髄」シリーズ 徹底解説で紹介しています。
総合的研究 論理学で学ぶ数学
長岡亮介先生による1冊で、論理を記号論理から厳密に学べます。数学の真髄より高いレベルを求める人向けで、基礎が固まってから取り組む本です。シリーズの他の本は「総合的研究」シリーズ全解説で紹介しています。
今日から始める論理の習慣
どの方法で学んでも、普段の演習で使わなければ論理は身につきません。解答を写すのではなく、一行ごとに理由を言えるかどうかが論理力の伸びを左右します。まずは次の4つを毎日の演習に取り入れてください。
- 式変形のたびに、同値(\(\iff\))か一方通行(\(\Longrightarrow\))かを答案に書き添える
- 文字で割る前に、その文字が0になる場合を確認する
- 「〜となる値を求めよ」では、求めた値で本当に条件を満たすか十分性を確かめる
- 軌跡や値域の問題では「この値をとる元が存在するか」に言い換えてから解き始める
答案の書き方そのものを学びたい人には「総合的研究 記述式答案の書き方」も役に立ちます。論理を意識して解いた内容を答案として採点者に伝える書き方を学べます。
まとめ
数学が伸び悩む原因は、多くの場合演習量や才能ではありません。自分が何をしていてなぜその問題が解けるのかを説明できないことにあります。論理はそれを目に見える形にする数学の文法で、数強が無意識に身につけているものを、数弱は意識的に学ぶことで手に入れられます。
偏差値60前後で止まっていた筆者が本番で合格者平均を大きく超えられたのも、問題集を増やしたからではなく、論理で確かめながら解くようになったからでした。最後に、今の状況別に次にやることをまとめます。
教科書の「集合と論理」を読み直し、この記事の4つの典型を自分の答案で起こしていないか確かめるところから始めてください。
方程式・図形・関数からとらえる数学の基礎か数学の真髄で論理を体系的に学び、毎日の演習で上の4つの習慣を続けてください。
解法の暗記を優先しつつ、除外点と十分性の確認だけは習慣にしてください。それだけで防げる失点は少なくありません。
パターン暗記で頭打ちを感じているなら、一度「論理」に立ち返ってみる価値があります。
受験診断ドットコム