「解法は暗記するべきか、理解するべきか」。受験数学ではこの論争がずっと繰り返されてきました。「暗記数学」という言葉を聞いたことがある人も多いはずです。
先に結論を言うと、どちらか一方が正解ということはありません。受験数学は「暗記→理解→暗記」の3段階で進めるもので、暗記と理解はそれぞれ別の段階で使う道具です。問題は順番を飛ばすことにあります。
- 暗記派と理解派の言い分と、それぞれの弱点
- 受験数学の3段階と、段階ごとに使う参考書
- 段階を飛ばすと数学ができないまま本番を迎える理由
- 今の自分がどの段階にいるかの見分け方
暗記派と理解派の言い分
暗記派の主張はシンプルです。入試は時間との勝負で、典型的な問題に毎回ゼロから解法を考えていては間に合いません。網羅系参考書で「この形の問題にはこの解法」というパターンを大量にストックしておき、本番では反射的に手を動かす。これが暗記数学の考え方です。
一方で理解派は、パターンの丸暗記には限界があると考えます。難関大の入試では見たことのない設定の問題や、複数の分野を組み合わせる問題が出ます。こうした初見の問題に対応できるのは「なぜその解法が使えるのか」を理解している人だけだ、という主張です。
| 暗記派 | 理解派 | |
|---|---|---|
| 強い場面 | 典型問題を速く正確に解く。共通テストや中堅大の入試 | 初見の設定や融合問題。難関大の入試 |
| 弱点 | 形が少し変わると手が止まる。条件の確認が抜ける | 時間がかかり全範囲を終えられない。解く速さが足りない |
| 陥りがちな失敗 | 何周しても偏差値が上がらない | 基礎の型がないまま考え込んで空回りする |
暗記か理解かは二元論ではない
数学では難関大になればなるほど、暗記した解法をそのまま当てはめられる問題は減っていきます。初見の設定に合わせて解法を組み替える必要があるからです。理解なき暗記を何周繰り返しても、数学はいつまでたっても伸びません。
一方で理解だけしていても受験数学では戦えません。たとえば公式を使うたびにいちいち導出していたら、時間がかかって仕方がありません。受験数学は限られた時間で答えを出すシビアな現場です。基本的な常識を暗記しておくことは絶対に必要です。
つまり暗記と理解は「どちらか」ではなく「どちらも」必要で、問われているのはどの段階でどちらに比重を置くかです。それを順番として整理したのが次に紹介する3段階です。
受験数学は3段階で進める
ポイントは、暗記が最初と最後の2回出てくることです。第1段階で覚えるのは教科書から入試の基礎までの型で、第3段階で覚えるのは入試レベルの型です。その間に理解の段階を挟むことで、第3段階で覚えた型が初見の問題でも使える武器になります。
第1段階:基本的な定義と典型問題の解き方を覚える
入門問題精講や青チャートなどの網羅系で、定義と典型問題の解き方を覚える段階です。ここは暗記中心で構いません。
ただし思考放棄の丸暗記ではありません。解答を眺めて手順だけを覚えるのではなく、各行で何をしているのかを追いながら覚えます。「この問題ではここで判別式を使う」と覚えるのと「2次方程式が実数解をもつかを調べたいから判別式を使う」と覚えるのとでは、第2段階に進んだときの伸び方がまったく違います。
第2段階:理解を深める
第1段階で覚えた定義と解き方について「なぜそうなるのか」「どんな条件なら使えるのか」を説明できるようにする段階です。ここで論理をしっかり学びます。
使うのは「方程式・図形・関数からとらえる数学の基礎 分野別標準問題精講」や「数学の真髄 -論理・写像-」です。論理とは何か、なぜ数学が苦手な人ほど必要なのかは数学が伸びない原因は「論理」だったで詳しく書いています。
第3段階:入試レベルの典型問題を身につける
真・解法への道やハイレベル数学の完全攻略などで、入試レベルの典型問題を身につける段階です。ここでは再び暗記が中心になります。難関大の入試問題も、分解すると入試レベルの典型の組み合わせでできているからです。
第2段階を終えていれば、ここで覚える型は「この形ならこの解法」という丸暗記ではなく「この条件だからこの解法が使える」という理由つきの型になります。理由つきで覚えた型は、形が変わった初見の問題にも持ち込めます。それぞれの本は真・解法への道の紹介記事やまるで予備校の授業な数学の参考書3選で紹介しています。
段階を飛ばすと何が起きるか
第1段階か第2段階がまったくできていないのに第3段階を始めようとすると、数学がまるでできないまま本番を迎えることになります。よくあるのは次の2つのパターンです。
定義や基本の型が入っていないので、入試レベルの解説を読んでも何をしているのかが分かりません。難しい問題集を眺めるだけで時間が過ぎ、基礎問題でも点が取れない状態が続きます。
入試レベルの型を丸暗記で大量に覚えることになり、覚えた問題は解けるのに少し形が変わると手が止まります。網羅系を何周しても偏差値が上がらない人の多くはこの状態です。
筆者自身が後者でした。4STEPと青チャートで解法を覚えても河合塾の模試で偏差値60前後から抜け出せず、京大理系志望の中では最下位付近でした。変わったのは高2で論理の大切さに気付き、覚えた解法の理由を確かめながら解くようになってからです。本番では京大の合格者平均を大きく超える点数を取れました。
暗記した頭と理解した頭の違い
同じ典型問題でも、第1段階だけの頭と第2段階を終えた頭では見えているものが違います。2次方程式の解の配置で比べてみます。
\(x^2-2ax+a+2=0\) が異なる2つの正の解をもつような \(a\) の範囲を求めよ。
\(f(x)=x^2-2ax+a+2\) とおきます。暗記で覚えた人は「判別式・軸・端点の3条件」を思い出して次のように解きます。
\[ \begin{aligned} &\frac{D}{4}=a^2-a-2>0 \\ &\text{軸}\ x=a>0 \\ &f(0)=a+2>0 \end{aligned} \qquad \therefore\ a>2 \]答えは合っています。ところが問題が「正の解と負の解を1つずつもつ」に変わると、同じ3条件を当てはめようとして迷い始めます。
理解している人は3条件を覚えているのではなく、下に凸の放物線が \(x\) 軸の正の部分と2回交わるための条件として3つを導いています。だから問題が変われば必要な条件も変わることが分かっています。正の解と負の解を1つずつもつのは、放物線が \(x=0\) で \(x\) 軸より下にあるときなので、条件は1つで済みます。
\[ f(0)=a+2<0 \iff a<-2 \]暗記した頭は「この形にはこの手順」を持っていて、理解した頭は「なぜその手順で答えになるのか」を持っています。第3段階で入試レベルの型を覚えるときに必要なのは後者です。
今の自分はどの段階か
次のうち当てはまるものが多い段階が、今取り組むべき段階です。
| 段階 | こんな状態なら | 使う本 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 教科書の例題レベルでも手が止まる。網羅系をまだ1周できていない | 入門問題精講・青チャートなどの網羅系 |
| 第2段階 | 網羅系は回したのに偏差値が上がらない。覚えた問題しか解けない。除外点や十分性の確認で減点される | 方程式・図形・関数からとらえる数学の基礎、数学の真髄 |
| 第3段階 | 典型問題の理由を説明できる。でも入試問題で方針が立つまでに時間がかかる | 真・解法への道、ハイレベル数学の完全攻略 |
よくある質問
網羅系を何周してから第2段階に進めばいいですか
周回数より状態で判断します。網羅系の例題を見て解き方がすぐに思い出せるようになったら第2段階に進んで構いません。周回数の考え方は参考書は何周すべき?「1冊を完璧に」が正しいのは1冊目だけ|京大生の周回数と一期一会の勉強法でも書いています。
第2段階はどの大学を目指す人でも必要ですか
東大・京大・難関国公立・早慶を目指すなら必須です。それ以外の大学では第1段階の型の暗記で対応できる問題も多いので、第2段階は除外点や十分性の確認など頻出の抜けを押さえる程度でも戦えます。
第2段階と第3段階は並行してもいいですか
第2段階の本を1冊終えて論理の基本が入っていれば、第3段階の問題集と並行して構いません。第3段階で理由が分からない解法に出会ったら、第2段階の本に戻って確かめます。
まとめ
解法暗記と理解はどちらが正解という話ではなく、段階によって使い分けるものです。基本的な定義と典型問題の解き方を覚え、その理解を深め、最後に入試レベルの典型問題を身につける。この順番を守れば、暗記した解法が初見の問題でも使える武器になります。
入門問題精講や青チャートで第1段階から始めてください。思考放棄の丸暗記ではなく、各行で何をしているのかを追いながら覚えます。
第2段階を飛ばしているサインです。方程式・図形・関数からとらえる数学の基礎か数学の真髄で論理を学んでください。
第3段階に進む時期です。真・解法への道やハイレベル数学の完全攻略で入試レベルの型を身につけてください。
暗記と理解は対立するものではなく、暗記→理解→暗記の順番で積み上げるものです。
この記事で紹介した参考書
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