「参考書は何冊にも手を出さず、1冊を完璧にすべき」。受験勉強で一度は聞いたことがある定番のアドバイスです。
筆者の考えは、このアドバイスは半分だけ正しいというものです。1冊目の基本書は覚えるまで何周も繰り返すべきです。でもある程度上達したあとまで1冊を覚えるまで回し続けるのは、かなり非効率です。そこから先は、いろいろな問題と一期一会で向き合っていくことが大切です。
- 「1冊を完璧に」が正しい場面と、正しくない場面
- 上達したあとに1冊を何周もするのが非効率な理由
- いろいろな参考書に手を出すことの良さ
- 単語帳と数学で層を重ねるミルフィーユ式の進め方
- 一期一会の勉強法の具体的なやり方
- 段階ごとの周回数の目安と、次の本に進むタイミング
「1冊を完璧に」が正しいのは1冊目だけ
初学の段階では、基本的な参考書を何回も何回も繰り返して身に染み込ませることが大切です。英語なら1冊目の単語帳、数学なら1冊目の網羅系参考書がこれにあたります。
単語や定義、典型問題の解き方は、あとで出会うすべての問題の土台になる語彙です。土台になる1冊は、見た瞬間に思い出せるまで覚えてしまうのが一番の近道です。単語帳の選び方はLEAPが最強な理由で書いています。
ここでいう「完璧」は、全問正解のことではありません。問題を見た瞬間に方針と、なぜその方針なのかが言える状態のことです。答えの数字を覚えているだけでは、条件が少し変わった問題に対応できません。
- 例題を見て、10秒以内に方針が言える
- その方針を選ぶ理由を一言で説明できる
- 数字や条件が少し変わった類題でも同じ方針で解ける
- 単語帳なら、見出し語を見て意味がすぐに出てくる
上達したあとに1冊を回し続けるのが非効率な理由
1冊目が身についたあとも同じ本を覚えるまで回し続けると、次のような問題が起きます。
- 考える練習ではなく思い出す作業になる:2周目、3周目と回すうちに、問題を見ただけで答えを思い出せるようになります。解けた気にはなりますが、初見の問題で方針を立てる練習にはなっていません。
- 入試はすべて初見の問題:本番で出るのは見たことのない問題です。同じ問題を覚えるまで解いた経験より、初見の問題に何度も向き合った経験のほうが本番で生きます。
- 同じ時間で出会える問題が減る:1冊を5周する時間があれば、別の問題を何倍も解けます。上達した段階では、出会う問題の数と種類がそのまま力になります。
上達したあとの周回は、問題を解いているつもりで答えを思い出しているだけになりがちです。
いろいろな参考書に手を出すのは悪いことではない
「参考書を何冊も手を出すのはよくない」とよく言われます。でも1冊目を終えたあとなら、いろいろな参考書に手を出すことには世間で言われているほど悪い面はなく、むしろ良い面があります。
- 1冊の本は1人の視点にすぎない:参考書は1人か少数の著者が書いたもので、著者の多くは研究者ではなく予備校講師です。どんな本にも誤りや的外れな説明が混ざることがあります。
- 正しく書いてあっても正しく受け取れるとは限らない:書いてあることが正しくても、読み手がその意味を正しく認識できているかは別の問題です。1冊だけでは、自分の理解のずれに気付けません。
- 多面的に確かめると理解が深まる:正しいことを知ろうと思えば、いろいろな文献で同じ事実を確かめるのが普通のやり方です。同じ内容を別の角度から説明されると理解が深まり、覚えやすくもなります。
- 1冊にしか載っていない知識を拾える:単語帳なら、その本にしか載っていない単語があります。何冊かに触れることで、こうした抜けを潰していけます。
1冊を覚えるまで回すことより、同じ事実を何冊もの本で確かめることのほうが、上達したあとの理解を深めます。ただしこれは1冊目の土台ができてからの話です。土台がないうちに何冊も手を出すと、どの本も中途半端に終わります。
層を重ねるミルフィーユ式の勉強法
筆者が勧めるのは、一気に完璧にしようとするのではなく、繰り返したり別の参考書に行ったり、また元に戻ってきたりしながら、ミルフィーユのように層を重ねて力を高めていくやり方です。単語帳と数学で具体的に見てみます。
英語の単語帳の場合
1冊目は見出し語を見た瞬間に意味が出る状態まで、何回も繰り返します。それが終わったら、別の単語帳を2周ずつ回して次に移ることを2〜3冊分続けます。そうすると基本的な単語は「抜けがない」「どれも見たことがある」という状態になります。
そこまで来たら、あとはどれだけ深められるかです。もう一度1冊目に戻って、第2義や第3義を覚えていきます。1冊を一度で完璧にするのではなく、何冊かを行き来して層を重ねるほうが、抜けも少なく深い語彙力になります。
数学の1冊目の場合
数学でも、1冊目の基本的な問題は何回も何回も解きます。ただし繰り返すうちに、問題が本のどこにあったかや答えの数字を覚えてしまったら意味がありません。それは解けているのではなく、思い出しているだけだからです。
繰り返しの中心に置くのは理解です。毎回「なぜこの方針なのか」を確かめながら解き、どの問題も理由まで含めて身についたら次の本に進みます。覚えるまで繰り返すといっても、覚える対象は答えではなく、方針とその理由です。
一期一会の勉強法
1冊目を覚えたあとは、1問1問を二度と会わない問題だと思って向き合います。やり方は次のとおりです。
- 初見のつもりで本気で解く:すぐに解説を見ず、方針が立つまで粘る。目安は1問15〜20分
- 足りなかったものを言葉にする:解けなかったら解説を読み、知識・方針・計算のどれが足りなかったのかを一言で書く
- 覚えるまでは解き直さない:解き直しは理由を確かめるために1回だけ。答えを覚えるための周回はしない
- 似た別の問題で確かめる:同じ問題を何度も解くより、同じ考え方を使う別の問題で使えるかを確かめる
大事なのは、2回目以降に同じ問題を解いて「解けた」と安心しないことです。足りなかったものが本当に身についたかは、別の問題で使えたときに初めて分かります。
段階ごとの周回数の目安
受験数学を「暗記→理解→暗記」の3段階で考えると、周回の仕方は段階ごとに変わります。3段階の考え方は解法暗記か理解か、受験数学の正解は「暗記→理解→暗記」で詳しく書いています。
| 段階と本 | 周回の仕方 |
|---|---|
| 1冊目の基本書 (単語帳・網羅系、網羅系の代わりの1対1) | 覚えるまで何周でも。目安は3周以上。2周目からは解けなかった問題を中心に |
| 論理などを学ぶ本 (数学の真髄など) | 1〜2周。理由を説明できるようになれば次へ |
| 入試レベルの問題集 (真・解法への道など) | 一期一会。1周を本気で解き、解けなかった問題を理由の確認のために1回だけ解き直す |
| 過去問 | 一期一会。本番と同じ時間で解き、間違えた問題は原因を書いて1回だけ解き直す |
左から1対1対応の演習、数学の真髄、真・解法への道です。1対1を1冊目として使うなら覚えるまで回し、2冊目以降として使うなら一期一会で向き合います。同じ本でも、自分にとって何冊目かで回し方が変わります。1対1の使い方は1対1対応の演習の使い方とレベルで紹介しています。
ありがちな3つの失敗
基本の型が入っていないうちに次々と新しい問題集に手を出すと、どの本でも解説を読むだけで終わります。1冊目だけは覚えるまで繰り返してください。
答えを覚えてしまった本を回し続けても、初見の問題に向き合う力は伸びません。方針と理由がすぐに言えるようになったら、次の本に進むサインです。
今の自分に難しすぎる本は、何周しても完璧に近づきません。数周しても正答率が上がらないなら、本のレベルが合っていない可能性を疑ってください。
よくある質問
1冊目がいつ終わったと判断すればいいですか
上のチェックリストの4つがほぼすべての問題で当てはまれば終わりです。周回数ではなく状態で判断してください。
2冊目以降はまったく解き直さないのですか
解き直しはします。ただし目的は答えを覚えることではなく、足りなかった理由が分かったかを確かめることです。1回解き直して理由が説明できれば、それ以上は回しません。
英語の単語帳も同じ考え方ですか
考え方は同じですが、回し方は数学と少し違います。1冊目は脊髄反射で意味が出るまで繰り返し、そのあと別の単語帳を2〜3冊、2周ずつ回して抜けを潰します。最後に1冊目に戻って第2義・第3義まで深めます。上のミルフィーユ式の章で詳しく書いています。
まとめ
「1冊を完璧に」は、1冊目の基本書についてだけ正しいアドバイスです。土台になる1冊は覚えるまで繰り返し、上達したあとはいろいろな参考書と問題に一期一会で向き合う。1冊の本は1人の視点にすぎないので、何冊もの本で確かめることで理解は深まります。何周したかではなく、何問の初見の問題に本気で向き合ったかが、上達したあとの伸びを決めます。
覚えるまで何周でも繰り返してください。チェックリストの4つが当てはまるまでが目安です。
次の本からは一期一会です。1周を本気で解き、足りなかったものを言葉にして別の問題で確かめてください。
答えを思い出す作業になっているか、本のレベルが合っていない可能性があります。数学の参考書診断で今のレベルに合う本を確かめてください。
受験診断ドットコム