微分・積分は公式の数が多く、暗記量で押し切ろうとする受験生が少なくありません。でも公式の意味を理解しないまま丸暗記で進むと、形が少し変わった問題や複数の公式を組み合わせる問題で手が止まります。
では微積分の「意味」とは何でしょうか。筆者の答えは一言です。微積分とは一次近似です。この記事では、一次近似という1つの考え方から、微分の公式・増減・積分・置換積分までがすべてつながることを、例題と図で解説します。
- 一次近似とは何か、なぜそれが微積分の本質なのか
- なぜ高校の微積分は分かりにくいのか
- 積の微分・合成関数・逆関数・陰関数の微分が一次近似から出てくる理由
- 増減・極値・積分・置換積分を一次近似で理解する方法
- 微積分を意味から鍛える参考書と取り組む順番
なぜ高校の微積分は分かりにくいのか
高校数学の微積分は、そもそも定義にかなり無理があります。微分も積分も極限の上に成り立っているのに、高校数学では極限をまともに定義していないからです。数学的に厳密な議論を高校の範囲でやろうとすること自体に無理があるのです。
だとすれば、直感的な説明で原理を解説すればいいはずです。ところがなぜかそこにはアレルギー反応があって、直感的な説明は避けられる傾向にあります。その結果、公式の形と小手先の説明だけが残り、何をやっているのかさっぱり分からないという状態が生まれます。
本当は「微分可能な関数は、どんどん拡大していくと直線になる」。ただそれだけのことです。この直感さえ持っていれば、高校の微積分の公式はほとんどすべて説明できます。
この分かりにくさのせいで、数IIIは「簡単」「暗記すればいいだけ」と言われるのに、苦手意識だけが芽生えてしまう人がたくさんいます。何をやっているか分からないので勉強する気になれず、問題の解答もなかなか覚えられない。数IIIがなかなか得意にならない原因はここにあります。
微積分の本質は一次近似
なめらかな曲線は、1点の近くを拡大していくとだんだん直線に見えてきます。曲線を、ある点の近くで直線(一次関数)とみなすこと。これが一次近似です。
このとき近似に使う直線が接線で、その傾きが微分係数 \(f'(a)\) です。式で書くと次のようになります。
\[ \begin{gathered} f(a+h)\fallingdotseq f(a)+f'(a)\,h \\ (h\ \text{が小さいとき}) \end{gathered} \]つまり微分とは「関数を、ある点の近くで一番よく近似する一次関数の傾きを求めること」です。教科書の「瞬間の変化率」や「接線の傾き」も、この一次近似を別の言葉で言い表したものです。
\(f(x)=\sqrt{x}\) とすると \(f'(x)=\dfrac{1}{2\sqrt{x}}\) なので \(f(1)=1,\ f'(1)=\dfrac{1}{2}\) です。
実際の値は \(1.00995\cdots\) で、ほとんど一致します。微分の値が分かれば、その点の近くの関数の値は直線で予測できる。これが一次近似の力です。
微分の公式は一次近似から出てくる
一次近似の考え方を持っていると、微分の公式は暗記しなくても自分で組み立てられます。ポイントは、\(h\) が小さいとき \(h^2\) は \(h\) に比べてさらに小さいので無視してよい、ということです。
積の微分
\(f\) と \(g\) をそれぞれ一次近似してかけ算します。
\[ \begin{aligned} &f(x+h)\,g(x+h) \\ &\fallingdotseq \{f+f'h\}\{g+g'h\} \\ &=fg+(f'g+fg')\,h+f'g'h^2 \end{aligned} \]\(h^2\) の項を無視すると、\(h\) の係数が \(fg\) の微分になります。これが積の微分の公式 \((fg)'=f'g+fg'\) です。
合成関数の微分
内側の \(g\) を一次近似し、その結果をさらに外側の \(f\) で一次近似します。
\[ \begin{aligned} &f(g(x+h)) \\ &\fallingdotseq f\bigl(g(x)+g'(x)\,h\bigr) \\ &\fallingdotseq f(g(x))+f'(g(x))\,g'(x)\,h \end{aligned} \]\(h\) の係数を読むと \(\{f(g(x))\}'=f'(g(x))\,g'(x)\) です。「外の微分×中の微分」は、一次近似を2回重ねただけなのです。形を丸暗記した人が迷いやすい公式ほど、一次近似で考えると自然に出てきます。
逆関数と陰関数の微分も一次近似で分かる
高校の微積分で特に分かりにくいのが、逆関数の微分と陰関数の微分です。教科書では合成関数の微分の公式に当てはめて納得させようとしますが、納得できたようなできないような説明になりがちです。どちらも一次近似で考えると、何をしているのかがはっきりします。
逆関数の微分
\(y=f(x)\) の近くでは、一次近似で \(y\) の変化は \(x\) の変化のおよそ \(f'(x)\) 倍です。逆関数はこれを反対から見るだけなので、\(x\) の変化は \(y\) の変化のおよそ \(\dfrac{1}{f'(x)}\) 倍になります。
\[ \Delta y\fallingdotseq f'(x)\,\Delta x\ \Longrightarrow\ \Delta x\fallingdotseq\frac{1}{f'(x)}\,\Delta y \]グラフで言えば、逆関数のグラフは元のグラフを直線 \(y=x\) で折り返したものです。拡大すれば直線に見えるので、接線も一緒に折り返されて傾きが逆数になる。逆関数の微分の公式 \(\dfrac{dx}{dy}=1\Big/\dfrac{dy}{dx}\) は、それだけのことを言っています。
陰関数の微分(楕円の接線)
一番ひどいのが陰関数の微分です。代表的なのが楕円の接線の求め方です。
楕円 \(\dfrac{x^2}{a^2}+\dfrac{y^2}{b^2}=1\) 上の点 \((x_0,\,y_0)\) における接線の方程式を求めよ。
教科書では「\(y\) を \(x\) の関数とみなして両辺を \(x\) で微分する」と説明し、合成関数の微分の公式で \(y^2\) を微分して \(2y\,y'\) とします。
\[ \frac{2x}{a^2}+\frac{2y\,y'}{b^2}=0\ \Longrightarrow\ y'=-\frac{b^2x}{a^2y} \]答えは出ますが、楕円は \(y\) が \(x\) の関数になっていない曲線です。それを無理やり関数とみなして合成関数の公式に当てはめるので、何をしているのか分からないまま手順だけを覚えることになります。本当は、この計算は高校の範囲を超えた考え方、つまり2変数の関数の一次近似(接平面)を使わないときちんと説明できないはずのものです。
高校の範囲を少し超えた本当の説明
\(F(x,\,y)=\dfrac{x^2}{a^2}+\dfrac{y^2}{b^2}\) とおくと、楕円は \(F\) の値が \(1\) になる点の集まり、つまり \(F\) の等高線です。2変数の関数も、1点の近くを拡大すれば平面(接平面)とみなせます。\(x\) だけを動かしたときの変化の割合は \(\dfrac{2x_0}{a^2}\)、\(y\) だけを動かしたときは \(\dfrac{2y_0}{b^2}\) なので、次のように一次近似できます。
\[ \begin{aligned} &F(x_0+h,\,y_0+k) \\ &\fallingdotseq F(x_0,\,y_0)+\frac{2x_0}{a^2}h+\frac{2y_0}{b^2}k \end{aligned} \]楕円に沿って動くなら \(F\) の値は \(1\) のまま変わらないので、変化の部分が \(0\) になる方向が接線の方向です。
\[ \begin{gathered} \frac{2x_0}{a^2}(x-x_0)+\frac{2y_0}{b^2}(y-y_0)=0 \\ \iff\ \frac{x_0x}{a^2}+\frac{y_0y}{b^2}=1 \end{gathered} \]最後は \(\dfrac{x_0^2}{a^2}+\dfrac{y_0^2}{b^2}=1\) を使っています。「\(F\) が変わらない方向に進む直線」が接線だと分かれば、教科書の計算が何をしていたのかも見えてきます。
合成関数の公式に無理やり当てはめた説明で納得できなくても、それはあなたの理解力のせいではありません。拡大すれば直線(平面)になる、という一次近似に立ち返れば筋は通ります。
増減と極値も一次近似で読む
\(f'(a)>0\) なら、点 \(a\) の近くで関数は右上がりの直線とほぼ同じなので増加しています。\(f'(a)<0\) なら減少です。増減表は、各点の一次近似の傾きの符号を並べたものだと言えます。
注意が必要なのは \(f'(a)=0\) のときです。一次近似の直線が水平になるだけで、近くで増えるか減るかは一次近似からは分かりません。たとえば \(f(x)=x^3\) は \(f'(0)=0\) ですが、\(x=0\) の前後でずっと増加していて極値をとりません。
\(f'(a)=0\) は極値をとるための必要条件にすぎず、極値かどうかは前後の符号の変化で確かめる必要があります。この必要条件と十分条件の考え方は数学が伸びない原因は「論理」だったでも例題で扱っています。
積分も一次近似でできている
積分は「細かく分けて足し合わせる」ことだとよく言われます。これも一次近似の考え方です。区間を細かく分けると、それぞれの小さな区間の中では関数はほとんど変化しないので、高さ \(f(x)\)・幅 \(h\) の長方形で近似できます。その長方形を全部足したものが面積です。
微分と積分が逆の関係になる理由
\(a\) から \(x\) までの面積を \(S(x)\) とします。\(x\) を \(h\) だけ増やしたときに増える面積は、幅 \(h\)・高さ \(f(x)\) の細い長方形とほぼ同じです。
\[ S(x+h)-S(x)\fallingdotseq f(x)\,h \]これは \(S\) の一次近似 \(S(x+h)\fallingdotseq S(x)+S'(x)\,h\) と同じ形をしています。だから \(S'(x)=f(x)\)、つまり面積を微分すると元の関数に戻ります。積分が微分の逆の計算になるのは、面積の増え方を一次近似で見るとこうなるからです。
置換積分の「\(dx=g'(t)\,dt\)」
\(x=g(t)\) と置き換えるとき、\(t\) が小さな幅 \(dt\) だけ動くと、\(x\) は一次近似でおよそ \(g'(t)\,dt\) だけ動きます。
\[ \begin{gathered} dx\fallingdotseq g'(t)\,dt \\ \Longrightarrow\ \int f(x)\,dx=\int f(g(t))\,g'(t)\,dt \end{gathered} \]置換積分で \(dx\) の書き換えを忘れる人は、この式を形だけで覚えています。「幅の変換を一次近似でしている」と分かっていれば、書き換えを忘れることはなくなります。
公式の暗記で止まる人がつまずく場面
| つまずく場面 | 一次近似で考えると |
|---|---|
| 公式を忘れた・形が少し違う | 一次近似を重ねて自分で組み立て直せる |
| 合成関数の微分で中の微分を忘れる | 一次近似を2回重ねると考えれば中の微分は必ず出てくる |
| 陰関数の微分(楕円の接線など)で何をしているか分からない | 値が変わらない方向に進む直線が接線だと分かる |
| \(f'(a)=0\) だけで極値と決めつける | 一次近似が水平なだけで増減は分からないと気付ける |
| 置換積分で \(dx\) の書き換えを忘れる | 幅の変換を一次近似していると分かれば忘れない |
数IIと数IIIで考え方は変わらない
数IIの微積分は多項式関数だけを扱うので、一次近似の考え方が一番見えやすい範囲です。数IIIでは指数・対数・三角関数と関数の種類が増えますが、やっていることは同じ一次近似です。数IIの段階で意味から理解しておくと、数IIIで新しい公式が出てきても同じ考え方で整理できます。
なお理系は数IIIに時間を取られて数IIの多項式関数の微積分が盲点になりがちです。この点は文系プラチカの記事でも触れています。
意味の理解と計算力は両輪
意味が分かっていても、最後まで正確に計算できなければ点にはなりません。筆者は現役のとき、京大の入試で積分計算の小問を解ききれずに15点を落とし、ちょうど15点差で不合格になりました。一次近似で全体の意味をつかみつつ、計算は反復で鍛える必要があります。計算力の鍛え方は受験数学は計算力で決まる?で書いています。
微積分を鍛える参考書
一番のおすすめ:微積分 基礎の極意
東京出版から出ている微積分の参考書で、高校の教科書が避けがちな本質的な説明がしっかり載っています。一次近似のように「何をしているのか」から微積分を学び直したい人に一番のおすすめです。使い方は微積分 基礎の極意の使い方とレベルで紹介しています。
レベルに合わせた進め方
左から坂田アキラの数IIIの微分積分、教科書だけでは足りない 微分・積分、真・解法への道!数学III・Cです。真・解法への道!は難関大で本番に再現できる解法を積み上げる問題集で、数IIIの微積分を入試レベルで固めるのにおすすめです。どの本でも、公式や解法が出てきたら一次近似で説明できるかを確かめながら進めてください。
超上級者向け:解法の探求・微積分
東京出版の解法の探求・微積分は超上級者向けです。これを全部解けるようになれば、東大や京大の微積分で解けない問題はなくなります。そのぶん難しいので、真・解法への道!などで入試の典型を固めてから取り組んでください。
よくある質問
一次近似は入試の答案で使っていいのですか
この記事の一次近似は、公式の意味を理解し組み立てるための考え方です。答案では教科書の定理や公式を使って書きます。考え方として一次近似を持っておくと、どの公式をどう使えばいいかの判断が速くなります。
文系にも関係がありますか
あります。数IIの微積分は文系の入試でも頻出で、増減・接線・面積はすべて一次近似の考え方でつながります。特に \(f'(a)=0\) だけで極値と決めつけるミスは文系でもよく見られます。
公式は覚えなくていいのですか
覚えてください。入試は時間との勝負なので、基本的な公式を毎回導出していては間に合いません。一次近似は、覚えた公式を忘れたときに立て直すため、そして公式をなぜそう使うのかを理解するための道具です。
まとめ
微積分とは一次近似です。微分は関数をある点の近くで直線とみなしたときの傾きで、積の微分や合成関数の微分もこの考え方から組み立てられます。増減は一次近似の傾きの符号で読み、積分は小さな区間ごとの近似を足し合わせたもので、面積の増え方を一次近似で見ると微分と積分が逆の関係になります。
覚えた公式を一次近似で説明できるかを1つずつ確かめてください。積の微分と合成関数の微分から始めるのがおすすめです。
数IIの段階で一次近似の見方を固めてから進むと、新しい公式も同じ考え方で整理できます。
あなたの理解力ではなく、高校の説明の仕方に原因があることが多いです。微積分 基礎の極意で本質的な説明から学び直してください。
計算力の不足を疑ってください。計算を反復して鍛えます。
公式の数だけ覚えることがあるのではなく、一次近似という1つの考え方からすべてが出てきます。
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