有機化学の参考書選びで迷ったら、まず候補に入れてほしいのが『改訂版 ここで差がつく 有機化合物の構造決定問題の要点・演習』(西村能一・黒澤孝朋、KADOKAWA)です。
構造決定問題という限られた範囲に絞った本ですが、有機化学の入試問題の8割方は構造決定問題です。1周にそれほど時間がかからないのに、この1冊でかなり高いレベルまで行ける、とてもおすすめの参考書です。この記事では、レベル・特徴・使い方と、この本の次にやるべきことを京大生の筆者が解説します。
- 構造決定問題とはどんな問題か
- この本をやるべき人・やらなくていい人
- 前半の赤シートと後半の典型問題という、この本ならではの構成
- レベル感と、東大・京大・医学部などで2冊目に何をやるか
- 構造決定問題を本番で確実に解き切るコツ
基本情報
| 書名 | 改訂版 ここで差がつく 有機化合物の構造決定問題の要点・演習 |
|---|---|
| 著者 | 西村能一・黒澤孝朋 |
| 出版社 | KADOKAWA(改訂版は2024年刊行) |
| 扱う範囲 | 有機化合物の構造決定問題 |
| レベル | 教科書の範囲をすべて扱い、ほとんどの理系大学の二次試験に対応 |
構造決定問題に絞った問題集です。前半の要点を赤シートでくり返し、後半の典型問題で仕上げる2部構成になっています。
構造決定問題とは
構造決定問題は、未知の有機化合物が出てきて、それについて「こういう実験をしました」「結果はこうでした」という情報がいくつも与えられる問題です。その中から探偵のように手がかりを拾い、その有機化合物が何かを突き止めて構造式を書きます。
手がかりの中心になるのは官能基です。ある反応を示したら、この官能基を持っていると疑う。それを積み重ねて構造を絞り込んでいくのが、構造決定問題の解き方です。
簡単な例で解き方のイメージをつかむ
分子式 \(\mathrm{C_4H_{10}O}\) の化合物 A は、金属ナトリウムと反応して水素を発生した。また、A はヨードホルム反応を示した。A の構造式を書け。
- 候補を挙げる:\(\mathrm{C_4H_{10}O}\) はアルコールかエーテルです。アルコールが4種類、エーテルが3種類あります
- ナトリウムと反応:ヒドロキシ基を持つと疑えます。エーテルは消え、アルコール4種類に絞られます
- ヨードホルム反応:\(\mathrm{CH_3{-}CH(OH){-}}\) の部分構造を疑えます。4種類のうちこれを持つのは1つだけです
よって A は 2-ブタノール \(\mathrm{CH_3{-}CH(OH){-}CH_2{-}CH_3}\) です。
実際の入試ではもっと多くの実験結果が組み合わさりますが、やっていることは同じです。「この反応を示したらこの官能基を疑う」という知識がどれだけ整理されているかで、解けるかどうかが決まります。
この本をやるべき人・やらなくていい人
有機化学の問題の8割方は構造決定問題です。だから二次試験で有機化学を使う理系には、この本の需要がかなり大きいと思います。
逆に、構造決定問題をまったく出さない大学もたまにあります。そういう大学が志望なら、この本はやらなくていいです。ただ、東大も含めて、構造決定問題が過去数年で一度も出ていない大学は本当に少ないはずです。志望校の過去問を確認して、出ているならこの本のレベルはやっておいたほうがいいです。
この本の特徴
前半:赤シートで隠す単語帳形式の要点
ほかの参考書と最も違うのが前半部分です。さすが構造決定問題に絞った参考書だと思わせる、とてもエッジの効いた作りになっています。
前半には、官能基がどういう反応をしたらその官能基を持っていると疑えばいいのかが、赤シートで隠せる単語帳形式でずらっと並んでいます。たとえば上の例題の「ナトリウムと反応したらヒドロキシ基」「ヨードホルム反応を示したら \(\mathrm{CH_3{-}CH(OH){-}}\) など」のような知識です。
ここを何回も何回も繰り返すと、構造決定問題で蓄えておくべき知識がしっかり身につきます。
後半:典型問題でアウトプットとインプット
後半には典型問題が並んでいます。前半で蓄えた知識を典型問題でアウトプットし、さらにその典型問題自体もインプットしてしまう。こうすることで、構造決定問題で知っておくべき基本的な常識を、完全にアウトプットできる洗練された状態まで持っていけます。
短時間で高いレベルまで行ける
1周するのにそれほど時間がかからないのも大きな長所です。それでいて、この1冊でかなり高いレベルまで到達できます。時間をかけずに有機化学の得点を大きく伸ばせる、コスパのとても良い本です。
使い方
- 前半の要点を赤シートで何回も繰り返す:単語帳と同じ感覚で、反応を見たら官能基がすぐ出てくるまで回します
- 後半の典型問題を解く:前半の知識を使って解き、解けた問題も解けなかった問題も典型として覚えてしまいます
- 本の「使い方」のページをしっかり読む:この本には使い方が詳しく書いてあります。進める前に必ず読んでください
前半の知識はほかの有機の問題でも土台になります。後半に進んでからも、前半の要点はくり返し見直すのがおすすめです。
レベル感:この1冊でほとんどの大学に対応できる
この本で、ほとんどの理系大学の二次試験に対応できると思います。高校の教科書に載っている範囲はすべて扱っているので、原理的にはすべての理系大学の二次試験に通用します。
ただし、青チャートを全部やっても数学の二次試験の問題がすべて解けるわけではないのと同じで、ごく一部に、この本だけでは解けないほど難しい構造決定問題を出す大学があります。
とても難しい構造決定問題を出すことがある大学の例
- 東京大学
- 東北大学
- 京都大学
- 医学部や医科単科大学の一部
こうした大学を目指す人は、2冊目として有機化学演習(駿台)に取り組むか、志望校の過去問をくり返し解いて、難しい構造決定問題に慣れるのが一番いいと思います。
有機化学演習〈四訂版〉(駿台文庫)。レベルの高い有機化学の問題集です。全員におすすめできる本ではありませんが、構造決定問題の要点・演習を終えたうえで、難しい構造決定問題を出す大学を目指す人の2冊目に向いています。
とはいえ、基本的にはこの1冊で事足ります。2冊目が必要になるのは、本当に一部の大学を目指す人だけです。
本番で構造決定問題を解き切るコツ
分かっていることを図解して整理する
構造決定問題で一番大事なワンポイントアドバイスは、与えられた情報と分かったことを、フローチャートのように整理して図解することです。問題用紙の余白や計算用紙が与えられているなら、そこにきれいに書き出してください。
上の例題なら、たとえばこう整理します。
入試は時間がないので、つい頭の中だけで進めたくなります。でも条件が多い構造決定問題では、整理を怠ると情報を見落としたり、同じことを何度も考え直したりしてかえって時間を失います。しっかり書いて、ゆっくり落ち着いて解いていくことが、結局は一番の近道です。
構造決定に時間を使える時間配分にしておく
だからこそ時間配分も重要です。志望校の二次試験で構造決定問題が出ると分かっているなら、構造決定問題にしっかり時間を費やせるような時間配分を、過去問演習の段階から作っておきましょう。これも立派な戦略です。
構造決定問題は満点を取りにいく問題
有機化学の構造決定問題は、そんなに難しいものではありません。この本で知識を固め、図解しながら落ち着いて解き、そのための時間を確保しておけば、必ず満点を取れるようになります。構造決定問題で満点を取れるようにすることが、大学入試で合格をつかみ取るための一番の対策だと思います。
よくある質問
いつから始めればいいですか
授業や講義系の参考書で、有機化学の官能基と反応をひと通り学んだあとに始めるのがおすすめです。1周にそれほど時間がかからないので、高3の秋からでも十分に間に合います。
構造決定問題が出ない大学でもやるべきですか
志望校で本当に出ていないなら、やらなくていいです。ただ、構造決定問題が過去数年で一度も出ていない大学は本当に少ないので、まず過去問で確認してください。
この本の次は何をやればいいですか
ほとんどの人は、この本の次は志望校の過去問で十分です。東大・東北大・京大や一部の医学部のように、とても難しい構造決定問題を出す大学を目指す人は、有機化学演習か過去問のくり返しで仕上げてください。
まとめ
『改訂版 ここで差がつく 有機化合物の構造決定問題の要点・演習』は、構造決定問題に絞った本です。有機化学の問題の8割方は構造決定問題なので、二次試験で有機化学を使う理系にとって需要はかなり大きいです。前半の赤シートで「この反応ならこの官能基」という知識を固め、後半の典型問題でアウトプットとインプットをくり返せば、構造決定の常識を完全に使いこなせる状態まで持っていけます。
分かっていることを図解して整理し、落ち着いて解きます。構造決定に時間を使える時間配分を作っておきます。
この1冊で事足ります。次は志望校の過去問に進みましょう。
2冊目として有機化学演習に取り組むか、過去問をくり返して難問に慣れましょう。
1周に時間がかからず、1冊でかなり高いレベルまで行ける素晴らしい本です。構造決定問題は満点を取りにいきましょう。
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